Return to List

鎌倉時代の奈良仏師(1)定慶 維摩居士坐像

鎌倉国宝館長・半蔵門ミュージアム館長 山本勉

Source: Nikkei Online, 2023年7月26日 2:00

飛鳥園提供

鎌倉時代の仏師といえば運慶・快慶の名が有名であるが、実は中世の仏像彫刻の大きなうねりは彼らの周辺にいた奈良の仏師から始まり継承されていった。そんな仏師たちの作品を点描してみよう。

初期の重要な仏師が定慶(じょうけい)である。明治以来の仏像研究のなかで比較的早くから注目されているが、師承関係不明で、名の「慶」字と作風から、運慶の父康慶一門の仏師と想像されるのみである。

興福寺東金堂の本尊薬師如来像の両脇に文殊菩薩(ぼさつ)像と一対で安置される維摩居士(ゆいまこじ)像は定慶の代表作である。像内銘により治承4年(1181年)の南都焼き討ちで失われた「堂舎之霊像」を、「仏師法師定慶」が建久7年(1196年)に再興したものとわかる。奈良・法華寺の奈良時代末期製作の維摩像の形を学んでいるが、康慶の興福寺南円堂法相六祖像を継承しながら、表情や衣文(えもん)の写実を徹底した作風に特色がある。定慶の作品の完成度は高く、運慶にも匹敵する実力がうかがわれるが、位置づけの手がかりとなる資料が少ない、謎の仏師である。活動が興福寺内にほぼ限定されており、興福寺専属の仏師であった可能性がある。(1196年、木造、彩色、玉眼、像高88.6センチ、興福寺蔵)

Return to pageTop